落ちる恋あれば拾う恋だってある

「この植物ですけど」

宮野さんは植物の葉に触れた。

「根本に近い葉が茶色く枯れてきてしまっているんです。先月も同じようになりましたよね? また業者に連絡して手入れするなり、交換するなりして頂きたいんです」

怒りがこもった言葉に焦り私も葉を見ると、宮野さんの言う通り鮮やかな色の葉の下に茶色く変色した葉があった。

「役員フロアですので見栄えが悪いものは置けません」

「分かりました……業者さんに連絡します」

「役員が見る観葉植物が汚いと困りますと業者にきちんとお伝えください」

「はい……」

確かに見た目の悪い植物を置いておくのは問題だけど、この話は呼び出さないで内線でもよかったんじゃないかな?

そう思ったとき、エレベーターのドアが開いて誰かが役員フロアに出てきた。その男性には見覚えがあった。観葉植物リース会社の担当者だ。

「ちょうどよかった。業者の方です」

会社内でリースしている観葉植物を月に一度メンテナンスしに来てくれるが、今日がその日らしい。40歳くらいの担当者の後ろからもう一人の若い男性が台車を押しながら出てきた。

「あ……」

思わず若い男性を見て声が出てしまった。その男性も私を見て目を見開いたけど、すぐに笑顔になった。その男性は先日合コンで会った椎名さんだった。

「おはようございます。株式会社アサカグリーンです。観葉鉢のお手入れに伺いました」

いつもの担当者の男性が私と宮野さんに挨拶した。

「おはようございます……ちょうどご連絡しようと思っていたところでした」

後ろの椎名さんの存在に戸惑うけれど、今は触れずにいつもの担当者に植物が枯れてしまったことを説明した。

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