落ちる恋あれば拾う恋だってある
「どう思ってもらってもいいよ」
椎名さんは掴まれた私の腕を中田さんから引き離した。
「洋輔くんは俺が狙った女の子をいっつも奪っていくよね」
「人聞きの悪いこと言うなよ。中田もさ、いい加減戻りなよ。待ってくれてる子いるんでしょ」
中田さんの目が泳いだ。この会話では二人の関係は分からないけれど、私はただ成り行きを見守ることしかできなかった。
「じゃあな中田」
今度は椎名さんが私の腕を取ると駅の方向へ歩き始めた。怖くて振り返ることはできなかったけど、中田さんは追ってこないようだった。
私の手を引いて歩く椎名さんの後ろ姿からは何の感情も読み取れなかった。
中田さんに連れていかれそうになって、椎名さんに助けてもらって、突然の状況に頭がついていかない。それでも椎名さんにお礼を言わなければと思った。
「あの、ありが……とうございま……した……」
言いながら泣きそうになるのを堪えた。じわじわと恐怖が溢れる。椎名さんはそんな私の様子に足を止め振り返った。
「気をつけなよ。君みたいな男慣れしてない子は扱いやすいんだから。ちょっと強く出れば簡単に連れ込めてヤれちゃうんだから」
形のいい唇から発せられた言葉が私の心を抉った。
「っ……」
涙が出ないように肩に力を入れ、椎名さんに見られないように顔を下に向けた。
男慣れしていないのは本当のことだし、さっきも中田さんのペースに飲まれていたけれど……。
「どうして……?」
そんなことを言うの? 椎名さんは私の何を知ってるの?
「今だって、俺は簡単に君をホテルに連れていけちゃうよ」
椎名さんは私の腕を掴んだ手に少しだけ力を込めた。