落ちる恋あれば拾う恋だってある
「……行かないです」
私だってバカじゃないから。
「椎名さんとホテルなんて行かない!」
思わず大きな声を出した。
簡単にお持ち帰りされたりなんてしない。
「さっきのはちゃんと自分で拒否できましたから!」
椎名さんは一瞬驚いた顔をした後にふっと笑った。
「さすがしっかり者の夏帆ちゃん」
椎名さんは距離を詰めると、ゆっくりと顔を近づけてきた。私の顔と椎名さんの顔が数センチのところまで近づき、思わず顔を逸らした。
何かされるのかと身構えたけど、頭を軽くポンポンと叩かれる感触があった。戸惑いながら椎名さんの顔を見ると意外なことに微笑んでいた。
「次は自分でそう言いな」
掴んだままの私の手を離すと「じゃあまたね夏帆ちゃん」とあっさりバス停の方に歩いて行ってしまった。
私は呆然と立ち尽くした。
「え? え?」
今頭をポンポンって……何あの人、変な人すぎる……。
中田さんのような男性は元々苦手だけど、椎名さんもまた苦手だと思った。あんな風に助けてくれる王子様のような人と自分では不相応な気がして、先程のことは夢だったのかと思う。
今夜のことが初めてのことだらけで疲れがどっと出てきた。
私も人並みに恋愛したいなんて、やっぱり望み薄なんだろうな。
駅に着く頃にはすっかり酔いは覚めていた。
結局椎名さんとどこで会ったのか聞きそびれてしまった。