落ちる恋あれば拾う恋だってある
「まだいてよ」
私の手を引くと隣に座らせた。
「はい……」
手を握ったまま彼は横に座る私に笑いかける。
「緊張してる?」
「はい……」
緊張しないわけがない。横山さんの家でご飯を作るという予定は済んだ。この先は予定にはないことで、予想もできないほど子供ではないから。
「北川さん見てるとさ、元気もらうんだよね。僕も頑張らなきゃって」
横山さんのまっすぐな瞳が私を捕らえて離さない。
「いつも一生懸命で、すごいと思う。ほんと尊敬してる」
「ありがとうございます……」
そんな風に言ってもらえるだけで十分だ。家族以外で私を褒めてくれたのは丹羽さんだけだったから。
好きな人が私を認めてくれて、それだけで幸せなことだ。
「横山さんだってすごいですよ」
真摯に仕事と向き合っている。周りからの信頼が厚い。私だって横山さんを尊敬している。
「修一でいいよ」
「え?」
「修一って呼んで」
「修一……さん」
「何? 夏帆」
夏帆と呼んだ声に心がこもっているのを感じた。
「おいで」
修一さんに体を少し傾けると、そのまま腕に包まれた。
「夏帆、今日は帰したくない」
耳元で囁かれた言葉に一気に緊張する。
「いい?」
『何が』とは言われなくても分かる。
「はい……」
返事をした瞬間唇を塞がれた。強引なわけじゃないけれど、いつもより激しく口の中に舌が侵入する。修一さんとのキスは慣れていても今夜はいつも以上にドキドキする。
唇が離れ修一さんは立ち上がると、私の手を引いて立たせる。そのまま体に腕を回して抱き上げた。お姫様抱っこをされたまま隣の部屋に運ばれてベッドの上にゆっくり下ろされた。
リビングから漏れる光だけの薄暗いベッドルームで、修一さんが私の上に覆い被さる。