落ちる恋あれば拾う恋だってある
一瞬、椎名さんに「料理を褒められて浮かれちゃったわけ?」と言われたことを思い出した。
私は利用されてなんかいない。修一さんに下心なんてない。
こんな私を好きって言ってくれた。恋人になってくれた。
私も修一さんが好き。平常心じゃいられないくらい。
慎重に考えた。彼になら抱かれてもいい。
服の中に入ってきた手に意識を持っていかれ、脳裏に浮かんだ椎名さんの顔は掻き消された。
唇が私の首筋をなぞり、体を這う修一さんの手の感触に息を呑む。
「あっ……」
初めて男の人に体を撫でられて、今まで出したことのない声が漏れ体が震えた。
「嫌だ?」
修一さんが不安そうに私の顔を見た。
「いえ……あの……私、初めてで……」
「え? そうなの?」
引くよね。この年で処女だもん。
「すみません……」
「何で謝るの?」
「だって……」
めんどくさいでしょ? 重たいでしょ?
修一さんは私の服の中から手を抜いた。
「ごめんね。今日はやめようか」
「え?」
やっぱり経験のない女とするのは重たいよね。
「夏帆の準備ができるまで待つから」
その優しい言葉に胸がいっぱいになる。修一さんは私を見下ろして頭を撫でた。
「体が緊張してるのが分かる。夏帆のことを大事にしたいから、ゆっくりいこう」
「はい……」
ほっとしたのと同時に残念な気持ちにもなった。大事にしてくれているのは嬉しい。でも初めてなんてやはり修一さんの重荷なのかもしれない。
「今夜はこのまま泊ってくれると嬉しいな。夏帆と離れたくない」
「そうします……」
小さく呟くと修一さんの唇が再び首に触れる。
くすぐったくて身をよじると修一さんは「ごめん」と私の体の上から退いた。