どうぞ、ここで恋に落ちて
すると樋泉さんの口が苦い物を飲んだみたいにへの字に曲がり、言葉を探して視線が彷徨い始める。
「……えっと、告白がカッコ悪かったから、その……今日くらいかっこつけたいんだけど」
それから観念したように頬を朱に染め、耳を垂らした子犬のような瞳で私を見下ろしはにかんだ。
「ごめん、ここにいると理性が吹っ飛びそうだから。古都のこと、大事にしたいんだ」
キュンッと胸を射抜かれて、目の前がチカチカした。
胸を押さえておかないと、羽根を付けた心臓がパタパタとどこかへ飛んで行きそう。
普段の彼があまりにパーフェクトだから見落としてしまいそうになるけど、不器用に隠された本音には卒倒してしまいそうなほどの破壊力がある。
樋泉さんは恋愛下手で正解だと思う。
こんなの、むやみやたらに振りまかれたらそこら中の女の子が夢中になっちゃうでしょ。
私だけが知っていればいいの。
「樋泉さん! 好き!」
「わっ! ちょ、待っ……!」
ぴょんっと跳ねて樋泉さんの首すじに抱きつくと、彼はまるでここにいると何か悪いことが起こるとでもいうように、抱きつく私を抱えたままいそいそとベッドから離れて寝室を飛び出した。
樋泉さんとなら、ゆっくりと引き寄せ合い、いつまでもお互いを離さずにいられる。
そんな予感が確かに胸を満たした夜だった。