どうぞ、ここで恋に落ちて
20.素敵な何か
「えぇ?」
女の子が、何でできてるか?
うーんと首をひねる私とは対照的に、千春子さんにはすぐに答えがわかったみたい。
もったいつけるマスターにやれやれと首を振って、お水の入ったグラスを傾ける。
「わかりません。女の子は何でできているんですか?」
私が降参して正解を尋ねると、マスターは得意げにニンマリと笑った。
「"砂糖とスパイス、それから素敵な何か"。そんなもので、女の子はできてるのさ」
「えっ」
"砂糖とスパイス"って……。
私の大好きなイギリス古典小説の題名だ。
マスターもあの小説を読んだことがあるのかな、それとも……?
ハッとして目を丸くする私に、マスターはかっこよく片目をつぶってみせる。
千春子さんはそんな彼をうさんくさそうに見やって、我慢ならないといった様子で口を挟んだ。
「それ、マザーグースの引用でしょ。ほんとたっちゃんって、他人の受け売りばっかり」
「賢くなったら手厳しいな、千春子は。昔は素直に聞いてくれたのに」