どうぞ、ここで恋に落ちて
焦る私を見て、樋泉さんがちょっと意地悪く口角を上げた。
お尻をズラして私のすぐ隣にくると、長い腕を広げてその中に私をすっぽりと囲って捕まえる。
彼はくすくすと笑いながら、私の頬に小さなキスをした。
「謝らないで。俺のああいうとこ知ってもガッカリしないでいてくれたのは、古都だけなんだ。むしろガツンと言ってくれるなんて、惚れ直した」
「うぅ」
嬉しいような恥ずかしいような微妙な気分で不貞腐れた顔になる私の髪に、樋泉さんが優しく指を絡める。
「俺の古都は、かわいくて頑張り屋で強くて優しくて、最高の女の子だよ」
「……懐柔しようとしてません?」
「まさか。ただ、古都にそっぽ向かれると困るから、俺も全力でいかないと」
私の胡乱な眼差しも、彼は笑って受け止める。
こうなった樋泉さんにはもう敵わない。
樋泉さんは私をぎゅっと優しく引き寄せて抱きしめ、鼻先の触れる距離で、許しを請うように黒い瞳を揺らして覗き込んでくる。
これってズルいよね。
私は断じて面食いではないけど、ムダにイケメンすぎるのはズルい。
自分の魅力に自覚のない樋泉さんに呆れることもあったけど、これを武器にする樋泉さんはもっとタチが悪い。