どうぞ、ここで恋に落ちて

「……そういうのするの、私だけにしてくださいね」

「もちろん」


嬉々として頷いた樋泉さんは、やっぱり確信犯だ。

降参のしるしに目を閉じると、頬を膨らませた私の唇を、彼のそれが優しく塞いだ。

角度を変えて触れ合うキスを繰り返し、ときどき樋泉さんが柔らかく歯を立てる。

ようやく唇を割って滑り込んできた彼の舌は、熱くて甘くて麻薬のようで、強烈な刺激に目眩がした。

震える私の背中を、樋泉さんの腕が支える。

食べ尽くすように堪能して彼が離れていったとき、完全に力が抜けて息の上がった私はそのまま樋泉さんの胸に身体を預けるしかなかった。


なんていうか、わかっていたつもりだけど……。


「樋泉さんって、ほんとに、憎らしいくらいなんでもできますね」

「全力でいくって言ったでしょ。今まで我慢してたし」


悔し紛れのひとことにも動じず、顔を赤くすることもない樋泉さんは余裕たっぷりだ。


私だって恋愛未経験というわけではないのに、キスひとつでこんなに骨抜きにされるなんて。

やっぱり樋泉さんはシャイなくらいが丁度良くて、彼の言う"全力"がむやみやたらに振るわれては私の心配事は尽きないだろうし、たとえそれが私だけに向けられていても身がもたない。


私は息が整うのを待って、樋泉さんの肩に額を押し付け、彼の香りに満たされてジッとしていた。
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