どうぞ、ここで恋に落ちて

嬉しくてつい頬が緩む。


「あんな素敵なイベントコーナーをつくったのが俺の恋人だなんて、ちょっと自慢したくなるよ」

「ふふ、そんなに褒めて、何か企んでるんですか?」


樋泉さんが褒めてくれるのは素直に嬉しいけど、そんなに特別なことをしたわけじゃない。

彼は栄樹社の営業マンなんだし、いろいろな書店でもっとおもしろい企画を見て来ているだろう。

ただ私は私なりに、一期書店のお客様がいちばん楽しんでくれそうな企画を用意できたから、今日一日がとても幸せだったんだ。

これがあと一ヶ月続くと思えば、毎日の出勤も更に楽しみになる。


「実は、企んでます」

「え?」


照れ隠しのつもりで冗談を言ったのに、樋泉さんにマジメな顔で返されて、私はキョトンと目を丸めた。

私の虚をついたことに満足したのか、樋泉さんの口角がいたずらっぽくニッと上がる。

辺りをキョロキョロと見回してすぐ側に人目がないことを確認すると、素早く腰を屈めて私の耳元に唇を寄せた。


「みんなに自慢したくなるような俺の恋人を、今夜はひとり占めしたいんだけど。お仕事が終わったら、連れ去ってもいいですか?」

「なっ」


私は樋泉さんの甘い囁きが直接注ぎ込まれた左耳を慌てて塞ぎ、近づきすぎた距離を離して彼を見上げる。
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