どうぞ、ここで恋に落ちて

自分で言って情けなくなってきたのか、樋泉さんはだんだんしょぼくれるように項垂れる。


こういうときの樋泉さんって、本当にかわいい。

確かにちょっと情けないところはあるかもしれないし、最近見る全力モードの余裕たっぷりな樋泉さんのほうがモテそうではある。

でも、こんな風に不器用でもまっすぐに向けられる彼の"好き"って気持ちを、嫌がる女の子なんているのかな。

私は彼の一途でひたむきな想いに、何よりも胸をキュンとさせられる。


「樋泉さん、あの時本当は普通に歩けてたんですよね?」

「うん。あ、でも、緊張してかなり視野は狭かったかも。古都のリードが優しくて助かった」

「ふふ、私もすごく緊張してました」

「それはウソだ。俺、心の中で喜ぶ反面『高坂さんは親切心で好きでもない男と手をつなげる。しかも俺は男として全然意識されてない』って、結構ヘコんだ」

「いえ、本当に緊張しましたよ。いつも営業に来ていた憧れの人と手をつなぐなんて、どうしようって……」

「ほら、"男として"じゃなかったでしょ」


樋泉さんはそう言って拗ねるけど、つないだ手を引き寄せられて耳元で囁かれれば、今の私がイチコロだってことをちゃんと知ってる。
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