どうぞ、ここで恋に落ちて
オマケ

25.恋するスーパーヒーロー






俺には、心を惹かれて止まない女の子がいる。

猫のようにパッチリとした大きくて魅力的な瞳は、くるんと上を向く長いまつ毛とふっくらとした涙袋に飾られ、濃いブラウンの虹彩は海のように深い。

顎先で揺れるチョコレート色のふわふわしたボブは背の低い彼女にとてもよく似合っていて、柔らかい毛先に何度でも手を触れたくなる。

笑ったときの小さなえくぼがかわいくて、俺はいつまでもこの笑顔を側で守っていきたいなと思うのだ。


彼女ほど、俺の心に強く優しく触れる女性は他にいない。

彼女にそっぽを向かれては大変困る。

他の男が連れ去ろうとすれば(これは本当にいつでも起こりうることだと肝を冷やしている)、俺の全てを賭けて阻止しなくてはならない。


頭の中でなら百本の薔薇の花束にも負けないような言葉を送れるのに、そのうちの1割も口に出して伝えられない。

彼女はたぶん、知らないだろう。

俺がどれだけ古都を愛してるかってことを。


「ね、見て洋太くん! 千春子さんに新刊の見本誌いただいちゃったの。しかもサインまでしてもらったの」


俺の部屋に帰って来るなり声を弾ませて駆け寄ってくる古都は、正直言ってめちゃくちゃかわいい。


本が大好きで、いつもお客様のことを考えている彼女に、初めは仕事相手として好感を持っていた。

書店員の中には、営業に行っても居留守を使って会ってさえくれない人もいる。

だけど彼女は俺の話を熱心に聞いて、いつでも書店を良くすることを考え、なんてことないアドバイスも驚くほど素直に受け入れて喜んでくれる。

俺はいつしかその笑顔を、ひとりの男として、誰よりも近くで見ていたいと思うようになっていた。


「古都、おかえり。仕事お疲れさま」


書店に勤める彼女の休日は大抵月曜日になることが多いから、日曜の夜はこうして家で夕飯を作りながら古都の帰りを待っている。
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