軍平記〜その男、村政〜

軍平対軍平(後編)




酒田港は思っていた以上に破壊され、多数の死傷者が出ていた。

建物は崩壊し、船も破壊され、遺体が転がる。

丘も破壊され本間邸は跡形も無くなっていた。


「こ、これは・・・。」
村政は驚いた。
7日程の間にマサムネは街を破壊していった。


たえと総司を、何故マサムネが連れ去ったのか全く謎だった。

村政は本間邸の跡地へ向かった。

そこには最後までマサムネに抵抗した本間海賊団の遺体が転がっていた。

「む、村政殿。む、無念でござる・・・。」

声の主は本間市郎だった。

「と、突如羽黒からあの悪鬼が、総司様を探しに現れ、街を破壊し、我らの屋敷へ来て・・・。ぐはっ!」

市郎は血を吐く。

「市郎殿、大丈夫ですか!」
駆け寄る村政。


「回復していない総司様を一人で連れて行かせないと、たえもマサムネと共に・・・。」

本間市郎はそこで息絶えた。

「本間殿!!」
市郎を抱き抱える村政。
一筋の涙が村政の頬を伝う。


彼岸花の郷の誓いから、頑なに涙を封印していた村政は、斬鉄の巫女と向き合い、己と向き合って、人らしい感情を取り戻しつつあった。

それは、言わば弱さだと自分に言い聞かせて生きてきた。
軍平村政の深層に有った、それは恐怖その物であって、目を背け、無感情のまま荒ぶる鬼神の如く戦場を掻き乱し、人を人とも思わず殺し続けた。
やがてそれが大きな痛みとなり、心へ突き刺さる忘れていた感覚として、村政自身に染み渡っていくように、涙を取り戻したのだった。


村政は悲しみの痛みを取り戻した事で、邪念が消え、無我の境地へと到達する。

己と刀を一つに、真の軍平として、羽黒に潜む悪鬼マサムネと対峙するのだった。





マサムネは総司を連れ去り、自分の復讐の相手はこの伊達総司だと認識したのだ。

マサムネの記憶が激しく混濁する中、伊達総司の顔を思い出した時に、その混濁は消えた。

すると全てを忘れ純粋な破壊衝動のみに支配される。
実に心地好い感覚だった。

その感覚を維持するために、伊達総司をさらい、自らが支配をする。
つまり、復讐を支配したのだ。


< 32 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop