シンデレラに恋のカクテル・マジック
 永輝が顔を傾けて菜々を見る。

「一ヵ月前、ご両親のことを話してくれただろ。俺よりずっとつらい過去を抱えてきたのに、毎日一生懸命でひたむきで……。そんな菜々ちゃんを、ほかの誰かじゃなく俺が支えたいと心から思った。でも、つい菜々ちゃんに触れてしまうとキミは困ったように赤くなるし、〝タメ口でいい〟って言っても相変わらず敬語を使って距離を縮めてくれない。手を出さないって公言した手前、やっぱり俺はキミの保護者でいなきゃいけないのかなって……ずっと自制してた」
「じ、自制……?」
「そうだよ。汗を光らせながらボトルを夢中で追いかけるキラキラした表情、フレアの練習後にシャワーを浴びた後の無防備な顔……そんな菜々ちゃんを見て俺がどんな気持ちになっていたと思う?」

 永輝が淡く微笑み、その切なさの混じった表情に菜々の心臓がトクンと音を立てた。彼の両手が伸びてきて、菜々の頬をそっと包み込む。

「菜々ちゃんが好きなんだ」

 彼のつぶやくような甘い声が聞こえた直後、菜々の唇に彼の唇が重なった。優しく押し当てられた柔らかな唇がゆっくりと離れ、永輝が菜々の額に自分の額をコツンと当てる。

「大樹からいろいろ聞いて、菜々ちゃんは俺のことを軽い男だと思ってるかもしれない。実際、俺は深い付き合いを避けてきたから。でも、菜々ちゃんと出会って、気づいたらフレア以上にキミに夢中になっていた。大切にしたい、守りたい。本心からそう思っている。この気持ちをどうか信じてほしい」
< 151 / 278 >

この作品をシェア

pagetop