シンデレラに恋のカクテル・マジック
「菜々さんはどうされるのが好きですか? 強引に迫られる方がいい? それとも焦らされる方がいいのかな?」

 一臣の手が菜々の顎に触れた直後、彼の熱い息が菜々の唇にかかった。とっさに菜々が顔を背け、行き場を失った彼の唇は菜々の耳たぶに口づけて離れた。

「おじい様は僕が今夜ここに泊まっても構わないとおっしゃっていましたよ」
「そ、それはいくらなんでもっ……」

 孫娘を引き留めるためとはいえ、何を考えているのだろう。祖父の考えに菜々は驚愕した。

「僕は本気です。迷うことなどないでしょう? 僕と結婚すれば何もかもうまくいく。おじい様は喜ぶし、菜々さんの将来も安泰だ」

 一臣が背筋を伸ばして、腰に両手を当て菜々を見下ろした。

「明日の朝まで待ちます。色よい返事を期待していますよ」

 一臣の目がキラリと光った。今まで見たことのない強い意志を宿したその瞳は、野心的にも思えた。

「それでは、また明日。葛葉のお嬢様」

 一臣が恭しく一礼して部屋を出て行った。一人残された菜々は、静まりかえった部屋の中で深く息を吐いた。張り詰めていた体がゆるゆるとほどけていく。

(和倉さんが私のことを……)
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