シンデレラに恋のカクテル・マジック
(吉村さんに口止めしておけばよかった!)

 そう後悔したが、果たして彼女が菜々の頼みを聞いてくれるかどうかは疑問だった。何しろこの家の――祖父の城の――お手伝いなのだから。

「入っても構いませんか?」

 一臣の問いかけに、菜々はあわてて言う。

「あの、まだ髪の毛もぼさぼさでノーメイクだし、今はちょっと……」

 それは大きな嘘だが、まだ一臣と話したくはない。

「そうですか。昨晩のことを話し合いたかったのですが、改めた方がよさそうですね」
「そうしてください、ぜひっ」

 菜々の焦り声を聞いて、ドアの向こうで一臣が苦笑する気配があった。

(もしかしたら嘘ってバレてる?)

 だが、一臣は追求することなく話題を変える。

「今日はどうされるんですか? あんなことがあったのに、大阪に戻ったりはしませんよね?」
「えっと、さっき予備校に電話して、今日と明日の休みをもらいました」
「そうですか。それなら今日はゆっくりできそうですね。僕はこれから出社しなければいけないので、夜にお伺いします」

 夜までに返事を考えろ、ということだろうか。菜々はゴクリと唾を飲み込んで答える。
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