シンデレラに恋のカクテル・マジック
 永輝が最後は投げやりな口調で言った。

「情けなくなんかないと思います。だって、永輝さんだって傷ついたんだから」
「そう思う?」

 永輝が言って、菜々を見た。愁いを帯びた瞳が寂しげに菜々を見つめる。

「はい」
「だったら、菜々ちゃんが慰めてくれる?」
「は?」

 永輝が片手を伸ばして菜々の頬に触れようとしたので、菜々は反射的にベンチの上を後退った。

「この話をすると、だいたいどの女の子も〝私が慰めてあげる〟って言ってくれるんだけど」

 永輝の瞳がいたずらっぽく光った。

(なんなの、この変わり身の速さっ!)

 菜々はすっくと立ち上がった。

「じゃ、フレアを教えてください。フレアをすれば夢中になれるんでしょ? 悩まなくてすむんでしょ? それなら今すぐフレアをしましょう!」

 菜々に強い口調で言われて、永輝が苦笑しながら立ち上がった。

「残念。菜々ちゃんには通用しないのか」
「当然です。それに、口説かないって約束でしたよ」
「そうだったな。仕方ない、真面目に教えるとするか」

 永輝がしぶしぶ言ったが、その言葉の裏に彼の寂しさが隠れていることに気づいてしまった今、菜々は永輝を冷たく突き放すことができなくなっていた。
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