ひねくれ作家様の偏愛
仕事を早々に片付けると、再び彼の部屋を訪ねた。
合鍵で入った部屋は、今朝と違うところがあった。

海東くんが昨日着ていたスーツがダイニングチェアに引っ掛けてある。
一度この部屋に戻ったんだ。

私はハンガーにそのスーツをかけ直しながら、出社したことすら悔やんだ。あのまま待っていればよかった。

明日は土曜で休み。
今夜もここで彼の帰りを待とう。

何としてももう一度、海東くんと話したい。



無常にも時は過ぎ、私はまた無人の彼の部屋で朝を迎えた。
海東くんが帰った様子はない。

どうしようか。
どこに行ってしまったんだろう。

ふと、思い当たることがあり、私は立ち上がる。
会社に行こう。


九段下に戻り、ファーストフード店で朝食をとると、ライナーワーク本社に入る。

土曜でも出社している人間はいる。
編集部のフロアは私が一番乗りだったらしく、管理室で鍵を預かった。

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