ひねくれ作家様の偏愛
やがて1ヶ月と半分が過ぎた頃のことだ。


『いい加減、目障りなんですよね。桜庭さん』


海東くんは窓辺に立ちながら言った。
私が差し入れたダイエットコーラを飲んでいた。


『次来るのは来週でいいですよ。それまでに多少書いておくんで』


『……え!?』


私は彼の言葉を反芻して、驚く。
それは引き受けてくれるってことだろうか?


『頭の回転、遅いですね。いいですよ、書きますよ。毎日、色気も何にもない女に口説きに来られちゃたまんない。精神が参ります』


海東くんはうっとうしそうに私に言う。
私は嬉しくて、彼の不快な様子なんてどうでもよくなっていた。
犬のように尻尾を振りながら、彼にまとわりつきたい心境だった。


『ありがとうございます!嬉しいです!私も担当として頑張りますね!』


『当然です。俺みたいな忙しい人間を捕まえて仕事させるんですから、あんたは今後も俺の言うことは優先して聞くんですよ』


海東くんは私の嬉々とした様子に怯んだようだった。
それだけ言うと合鍵を放り投げ、さっさと仕事場に戻って行った。




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