ひねくれ作家様の偏愛
私を追い払おうという気持ち半分、あとは彼の性格半分だと思う。

十代にして名声と富を手にし、もともとの生まれも裕福な家庭。
そこに才能を誉めそやされ、羨まれ、求められる環境が手に入った。
増長しない若者はいない。

正直、私は落胆を隠せなかった。
あの名作ゲームの原作者がこんな男だったのか。
こんなクソガキだったのか。
私を泣かせたあの世界観は間違いなく彼の中にあるはずなのに。
どうして、この男はここまでねじれた根性のひねくれヤローなんだろう。


『桜庭さん、俺に書いてほしいんでしょ』


海東くんの決まり文句。
“書くから言うことを聞け。”
半分は下命で半分は自分の意志で、私は海東くんに従い続けた。

私にできることは、彼が仕事を受けるまで通う。
これだけ。

社内では『通い妻』という不名誉なあだ名をつけられ、新人のくせにサボってると揶揄され、それでも通い続けた。

私が自分を殺してまで、彼を口説いたのは、それでも彼が輝かしいものを生み出す担い手であったから。
彼が書いてくれれば、あの世界が再び目の前に広がるんじゃないかという期待が、屈辱の中、私を動かし続けた。
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