ひねくれ作家様の偏愛



「桜庭さん」


呼ぶ声にゆるゆると目を開くと、薄墨色の室内に海東くんが立っていた。
壁の時計は午前4時半を指し、私の膝には毛布がかかっていた。


「出来たんで、見てもらえますか」


「海東くん……」


海東くんは落ちくぼんだ目で私を一瞥すると、電気ポットを持ってキッチンに向かって歩いて行った。
水道を捻る音。ポットの底に弾ける水音。

起きて待つつもりだったのに。
寝ちゃうなんて情けない。

私は寝起きの目をこすり、外の薄明かりを頼りに原稿に目を通し始めた。

小一時間ほどでさわりは読めた。
少し迷ったけど、感想の代わりに言う。


「どうしても私と打ち合わせしてくれる気はないんだね」
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