艶楼の籠

「酒は、初めてか?」


「はい…。」

喉が焼けるような感覚から、口の中が甘く果実のような香りが鼻から抜けた。


「美味しい…っ!!」


「はっは!そうか!良かったなぁ。艶楼街でも華やは、上等な酒を仕入れてる。よって、ここへ足を運ぶ客人も上等な奴ばかりだ。一見は受け入れない。…雅、噂で聞いたことはあるだろう?」


私は、確信したのだ。
人とは思えない程、美しい男がいる場所。
足を踏み入れたら最期。全てを奪い取られてしまう所…。恐怖が身体を支配していく。


「はい…。それが、ここ?」


「そうだ。まぁ。そんな、恐ろしい顔をするな。取って喰いやしないさ。俺達は、艶楼を籠って呼んでるんだが…さっき居た奴らも、俺も籠の商品さ。俺を含めた3人が、ここの華の王だ。まぁ、簡単に言えば、客人からの人気が高い上位ってこと…。」


椿の口から出た商品という言葉。
客に金で買われ…宴をあげる場所。


「客は、俺達に貢ぎ…自分のものにしようと必死だ。金を払い、一夜の夢を手に入れる。」


そう語る椿の表情は、どこか曇っていて、胸が締め付けられる。
女の夢を提供する側は、好いてもいない女を愛すのだ…。
なんて、儚くて…寂しいんだろう。


「辛くは、ないのですか…?」


「辛い…?そんな感情は、遠の昔に忘れちまったよ。……本当に、女とは浅ましい生き物だ。俺の偽りの言葉を信じ幾晩も通う。何人もの女を抱いたが、同じような奴ばかり…。反吐が出るっ!」


恐ろしい程低い声で、表情からは感情が読み取れない。
掛ける言葉すら見つからなかった。
椿の綺麗な手を握り締めると、一瞬顔が歪んだ。


「っ!……そうか………お前達、もう時間だ。」


部屋にいる者に声を掛けると、皆足早に出て行った。


「さぁ。これからは、2人きりの時間だ。楽しもうじゃないか。」


そう言われ、連れて行かれた先には、真っ赤な布に金やら銀、色とりどりの装飾がされた寝具が1つ。妖しくひかりを放つ、灯籠。
ここで起こり得ることが容易に想像出来た。


「椿さんっ!私…帰ります!」


―グイっ!―


「今更どうした?お前も俺に抱かれたいだろう?…少し気持ちよくしてやれば、煩い口からは、憂いを帯びた声しか出せなくなる。…さぁ、来い。」


侮辱されている気分だった。

お前も、所詮女。どの女とも一緒だろう…そう言われてる気がした。


―パシッ!―


「っ?!……何しやがる。」


頬を叩いてから、後悔した。


「ご、ごめんなさいっ!つい頭にきて……。」


「………………………。」


何も言葉を発しない。
相当痛いか、怒っているかのどちらかだろう。
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