艶楼の籠
盛大に冠宴の儀は行われた。
父母と共に親戚一同へ挨拶まわりを行う。


「雅さんっ!綺麗になったねぇ!こりゃ、お婿さん候補も問題なさそうだ!はっはっは!」


親戚一同の社交辞令に対し、当たり障りのないように、微笑んでいる自分自身が嫌になる。

宴も酣になると、歌に踊りに楽しむ人もいれば、明るい街へ帰って行く人もいる。
今私の周りで行われていることが、虚しく思えてくる。

抜け出したい…!

そう強く思った時には身体が勝手に動いていた。
着物の裾を捲り上げて、夢中で走った。
明るい街を抜け、月明かりに照らされる河原までたどり着いた。

「これが自由……。」

20歳になったことを実感したかった。
なんて、清々しいんだろう。
一時の自由かもしれないが、先ほどまでの息苦しさから解放されたことが嬉しかった。
今頃、父母は大騒ぎしているだろう。焦っている顔を想像すると笑いが込み上げてくる。


「ふふっ…。可笑しいっ。」


薄暗い河原にいるのに、恐怖心は芽生えてこない。
何故だろう。
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