ごめん、好きすぎて無理。









『……娘が産まれたとき、命に代えてもこの子の幸せの為ならなんだってすると思った…。

 いつかこの子にも大切な人が出来て、その人と幸せになりたいと言う日がくることも分かっていたよ……。

 だから、その時がきたら、快く、満面の笑みで“幸せになりなさい”と言おうと思っていた…。

 なのにどうして紗奈も君もそうさせてくれない…!?

 どうして……娘に“幸せになりなさい”と言わせてくれないんだ…。

 どうして……娘の恋を、娘の選んだ相手でさえ認めさせてくれないんだ…』






紗奈のお父さんは目から溢れだす涙を見せぬよう、その逞しい腕で顔を隠した。








『………お父さん……』






『……紗奈、私に……“幸せになりなさい”と言わせてくれ……』











もう、何も言えなかったー…




娘を想う父親に、俺たちの関係を認めてもらえる、そんな言葉が思い浮かばない。


例えあったとしても、今の俺に、紗奈に、その言葉を使うこと、多分出来ない…。










『………陸、君…。
 すまないが…今日は帰ってもらってもいいかな……』






紗奈を諦めたくない。

紗奈の手を離したくない。


もう後悔する日を過ごしたくない。







でも、どうしてだろう。


人の父親を、いや大事な人の父親を泣かせていい権利、そんなもの俺は持ってないから。






俺は静かに立ち上がり、深々と頭を下げてから、病室を後にしたー…

















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