ごめん、好きすぎて無理。
『……え……』
大地が思わず発する声、それは俺も自分自身の心の中で発した声だった。
『もう無理、そう言われて終わった恋、去って行った人なのに、それでももう一度だけその人の“好き”の言葉を聞きたくて、待ち過ぎちゃったの、バカだよね、私…』
紗奈の視線が俺の方に向けられる。
不意に合った視線、それを意識した瞬間に俺は視線を反らした。
『…てか、海は彼女がこんな話をしちゃってて平気なの?』
これまた悪気はないのだろう、ぱっと出た疑問を問いかけただけなんだろうけど。
大地はそう言って海を見つめる。
『まぁ…心中穏やかではないけどね。
けど、あの頃の紗奈の一番はその人だったかもしれないけど、今は俺の隣にいてくれる。
今の紗奈を、俺は信じるよ』
今の紗奈を信じる…?
海は何も知らないんだな…
俺はすぐにそう思った。
海、お前が信じてる、いや信じたいと思っている、その子は。
俺のことを待ってた、俺のことを追いかけるためにお前といる最低な女で、お前のことなんて…
『海も人がいいよな?
俺だったら本当に今は俺だけなのか疑っちゃうけどな』
気持ちがつい昂ぶっていたのかもしれない。
海の想いを利用して、俺を求める紗奈の本性を海に教えたかったのかもしれない。
気がつけば、俺は海にそう言っていた。
でも、海はすっげー優しい顔を見せる。
『疑わないよ、俺は。
だって俺が紗奈といることに幸せを感じてる。
紗奈が俺の隣にいてくれれば、俺はそれだけでいいよ。
例え紗奈に裏切られても、それでも俺は紗奈を愛してる』
…そう、俺に答えてくれた海は、今までで一番いい男だと思った。
海の想いの深さを知る、と、同時に海の為にも紗奈の想いをなんとかしなきゃいけないと思った。