ごめん、好きすぎて無理。





それから紗奈は“行こう”と言って、俺の手を引いた。



これが最後、これが最後だから、そう自分の心に言い聞かす。



俺はなんでこんなにも自分に言い聞かせてるのか、それは海への罪悪感を少しでも減らそうとしたいから、これまたそう自分に言い聞かせた。









『紗奈…今からどこ行くの?』



俺は数歩前を歩く紗奈に問いかける。



でも紗奈は何も答えなかったー…




俺は紗奈に手を引かれるまま、そのまま歩いた。





そのうち駅までやってくると、紗奈は財布を出して同じ値段の切符を二枚購入した。








『紗奈、金渡す』



俺は財布を取り出すも、財布を握っている手に触れて、ニコッと微笑んだ。







『いいの。
 これは最後の陸とのデートだから。
 陸の時間を今日だけもらうことのお駄賃だよ』






『いや、それなら余計に俺、出すよ。
 最後に女から金出してもらうとか、なんかさー…』





『いいんだよ、陸。
 その代わり、私のお願い、全部聞いてね?』





その、私のお願い、全部聞いてね、は、俺が悩まずとも出来ることなのだろうか…


もう紗奈を傷つけないものなのか、海をこれ以上裏切らないものなのか、それすら検討がつかない…












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