彼と私の事情
「…でだ。」

私を見つめて、姿勢を直す彼につられて、私も姿勢を直した。

「彼女と別れて、今の会社に入ったのが1年ちょっと前なんだ。お前が辞める1ヶ月前。…入れ替わりだけど、一緒の場所にはいたんだ。」

「知らなかった…。」

全く会った記憶がない。

「部署も違うからな。当時の俺はこんな顔してなかったし。もっと立ち直れてなくて、暗い顔だと思う。

対照的に、お前はイキイキしてて、笑顔が絶えないような感じだった。

寿退社みたいなもんだってみんないってたな。

その時、笑顔を見て…少し元気をもらったんだ。

そのあと部署が変わって課長と働くことになってだ。

この間課長に呼ばれて行ったら、笑顔がなくなって、少し痩せて、くまがあるお前がいたわけだ。

近いってのもあったけど、どうにか元気にしてやりたかったんだ。
だから俺の家に運んでもらうことにしたんだ。」

私の顔色を伺いながら、続けて話す。

「最初は元気にしたいだけだったんだけど…
お前を抱きしめて寝て、ぐっすり寝てる顔を見て…

くまもなくなって、あの頃みたいに笑顔も出てきて。

俺の側で笑っていて欲しかったんだ。

いや、多分一番最初に一緒に寝て次の日のくまが薄くなったのを見て、単純に嬉しかったんだ。

もっと元気になってほしいと思ってあの店に連れていった。

それで、あのメニューを頼んだ。

俺にとって特別なメニューを。

…言ってる意味わかるか…?」

もう我慢できなかった。

涙は出てくるし、嬉しいし、期待するなって方が無理で。


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