大人の恋はナチュラルがいい。

「なに?」

「……別に」

 いつも素直に感情を見せる彼が私に何か悟られまいとしている。いや、むしろ悟って欲しそうな、そんな照れ隠しに近いもどかしそうな雰囲気を感じる。それがなんなのか、下から伺うように顔を覗きこむと太一くんは「お腹減ったー」とあからさまに空気を変えるおどけた声を出して、再び部屋へと戻っていった。……なんだったんだろう?


 慣れた分野とは云い難いけど、タイ料理とは言えスープに炒め物にサラダ。そんな定番の献立なら20分もあればチャッキリと作れてしまうのが飲食業の端くれというものだ。出来上がった料理をダイニングのテーブルに並べ、空腹の太一くんを椅子へ座らせる。

 スーパーで運よく売っていたシンハービールで乾杯をしてから、太一くんは「いただきます」と丁寧に手を合わせると早速料理に舌鼓を打った。「美味しい」を繰り返しながらパクパクとスプーンや箸を口に運ぶ様は如何にも男の子らしい食べっぷりで、見ていて気持ちがいい。そんな彼の様子を見て、さっき悪戯に過った『毎日作ってあげたい』という母性本能がますます強くなるのを感じながら、私はピリ辛なサラダをシャキシャキと租借した。

 本来予定していたディナーの時間より大きく遅れた事もあって、ふたりともお腹が減っていたんだろう。ゆっくりお喋りをしながら食事を楽しむというよりは、料理そのものを堪能したせいでわりと早くお皿は空になってしまった。

「ビールもう1本飲む?おつまみ作るけど」

「ううん、もういい。あんまり飲むと帰るのしんどくなっちゃうから」

 時計の針は間もなく22時。まだ週の半ばで明日もお互い仕事である事を考えたら、そろそろお開きにした方がいい時間だ。同じように感じたのか太一くんもグラスに僅かに残っていたビールを飲み干すと「ご馳走様でした」と再び丁寧に手を合わせて椅子から立ち上がった。
 
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