大人の恋はナチュラルがいい。

「それにしても凄いね。ヒヨコさん、俺が料理するときの10倍くらいの速さで動いてる」

 今度はゆっくりとこちらへ近付き改めて私の手元を覗き込みながら、太一くんは長い睫毛の乗った目を面白そうにしばたかせた。まるで玩具かゲームに興味津々な子供みたいで可愛らしい。私はさっきみたいに意識を没頭しすぎないよう注意しながら、再び艶めくパプリカをザクザクと刻んでゆく。

「太一くん、料理とかするんだ?」

「するよ、独り暮らしだし。って言ってもカレーとかパスタとか簡単なもんばっかだけど」

「それだけ出来れば充分じゃない」

「でも自分で作るレシピばっかじゃ飽きちゃって。コンビニ弁当で済ませちゃう事もあるけど美味しくないし。だからヒヨコさんのランチボックス、本当に毎日楽しみにしてるんだ、俺」

 太一くんがいつもランチボックスを褒めてくれていたのは決してお世辞なんかじゃなかったのだなと、私は今度はタマネギをみじん切りにしながら改めて思った。美味しい手作りご飯が食べたい、けど自分ではあまり作れないと云う独り暮らしの男性によくある葛藤。彼もそれを抱えるひとりだったのだなと気付くと、なおさら今夜は美味しいものを食べさせてあげたくなった。

「晩ご飯も毎日私が作ってあげられたらいいんだけどね」

 近所にでも住んでいたらそれも可能なんだけど。と、こまめに晩ご飯のおすそわけをしに行く自分を想像して、なんだか甲斐甲斐しい隣人みたいだと笑っていたら。

「ん?」

 ふに、と突然人差し指で頬をつつかれてしまった。なんだ?と思って斜め後ろに立つ彼を見上げれば、何故だか真顔。けれどキュッと力を入れて引き結ばれた口角が、言葉と感情を無理矢理飲み下しているように見えた。
 
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