大人の恋はナチュラルがいい。

***

「ヒヨコさん具合悪いの?」

 週末のデート。映画を観に行ってから買い物をして、一緒にご飯を食べようと太一くんのマンションへふたりで帰って来た時、リビングのコンパクトソファへ腰を降ろすなりそう聞かれた。

「そんなことないよ」

 滑らかなカーブのアームに手を掛け身を乗り出すように答えればスプリングが微かに軋む。太一くんは冷蔵庫から取り出したペリエを1本私に手渡すと、隣に静かに身を沈めた。

「ならいいけど。今日のヒヨコさんなんか元気無い気がして」

 そう言いながら彼が瓶の蓋を開けるキチリと云う硬質な音に併せて、私の神経も冷たく引き締まる。“言わなくちゃ”、そんな緊張感を今日1日ずっと抱えていた。情けないけれど、本当に情けないけれど、私は妊娠の可能性を太一くんに打ち明ける事に怯えている。

 きっと彼の未来をも大きく変えてしまうかもしれない告白に、一体どんな顔をされるのか。ましてやまだ26歳だ、男性にとっては家庭を背負うにはいささか早い歳にさえ思える。もしも一瞬でも嫌な顔をされたら、迷いも見せずに『産まないで』と言われたら、あんなに優しかった態度が一変したら――ただでさえめっきりダウン気味のマイメンタルが、いさぎよくポッキリ折れてしまうかもしれない。それを思うと私はどうしても電話や終業後の短い時間で打ち明けることが出来ず、今日の休日をグズグズと待ってしまった。妊娠の可能性に気付いてから早5日も経ってしまったと言うのに。

「大丈夫、元気だよ」

 気を抜けば不安でしかめてしまいそうになる顔を、表情筋をよいしょと持ち上げて笑顔を作る。白々しい取り繕いだったかもしれないけど、太一くんはそれを無理に暴く事をせず「うん」と受容の返事だけをして、後は黙って頭を撫でてくれた。
 
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