赤いエスプレッソをのせて
私はこの途端、彼にこの上なく悪いことをしたんだと知った。

彼は夢を見ている。

彼は私を、死んでしまったお姉さんとダブらせている。

それは本当の意味で、重ね合わせ。

私はすでに、『彼女』なんだ。

彼の心根に気付いたと同時に、頭の隅のほうで、仲代先生がしてくれたことが浮かんだ。

彼女は私を安心させるため、見事に演じたのだ。

私の、母さんを。

だから私も、演じた。

「大丈夫だよ……ショー」

お姉さんの役を。

お姉さんが彼のことを、ショーと呼んでいたことは、前から聞いていた。

だからできた演技だ。

「大丈夫だよ、ショー。お姉ちゃん、ここにいるから。生きてるから」

子供のように泣きじゃくりながらしがみついてくる彼の背中を何度も優しく撫でていたその時、

ふと浮かんだ考えが私を凶悪に、そして卑怯にした。

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