赤いエスプレッソをのせて
私は、死ぬのが怖い。

いいや、死ぬのが怖くないなんて言う人はいないだろうし、もしいたとしても、そんなのただの見栄っ張りだ。

以前に一度そういうことを抜かした男がいたもんだから、軽くおふざけで包丁を向けてやったら、腰を抜かして悲鳴をあげ、とんでもない勢いで逃げていったのを覚えてる。

あの時に、『脱兎』という言葉を知ったもんだ。

ほんと、しょうのない。怖いなら素直に言いなさいってのよ。

まあ結局、死ぬのが怖い私は、自分が妹のそばへ行ってやることができない。

あと追いなんて、とんでもない。


だって怖いんだもん。死ぬのって痛そうだし、正直、やだ。

だから私は、妹のそばへ代わりに行ってくれる誰かがいないかと思うと、あっという間に、人を殺してしまいたくなるんだ。

もうこの際、だれでもいいじゃないのよ。だれ殺したって一緒でしょ。千代は文句なんか言いやしないわよ。

とまぁ……まだ、そんな風には考えてしまわないからいいものの、ミョウチクリンな病気の私は、いつその域に達してしまうやら。
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