赤いエスプレッソをのせて
スクランブル交差点で立ち止まる。

すぐ横を見ると、フリフリのついた日傘を差した厚化粧のおばさんが、黒のプードルを引き連れていた。

本人は気取ってるつもりでも、なんとまあ『それっぽい』おばさんだろう。

「ちょっとぉ、なんなんですの、さっきからアナタ?」

「え、ぁ――すみません、その、悪気があったんじゃないんです。えーと、すみません」

気付けば、いつの間にかおばさんがとんでもない形相で私を見据えていた。

どうやら笑いをこらえきれていなかったみたいだ。

おばさんのど派手なくらい真っ赤な唇が、極太のミミズみたいにぐにょりと曲がっている。

正面から見るとなおさら、気取ってるというよりも前に、昔話の魔女そのもので、ほんとにおかしくて。

仕方なしに、おばさんから数メートル離れたところに移動して、笑いの波が過ぎていくのを待った。

と、妙な悪戦苦闘の最中に、信号が青へと変わった。

歩きながら肩を震わせて忍び笑いを漏らさないように、ひとつ、こほんと咳をして気持ちを収める。
< 13 / 183 >

この作品をシェア

pagetop