赤いエスプレッソをのせて
――と、再び、足が地面に落ち着く感覚。

「あ」

私は、声を小さく漏らしていた。

場所は、さっきと変わらないけど、目の前に、さっきはなかったヘンなものが転がっている。

「なにか、見えますか?」

またあの声が。

「うん」

と、私は答えた。

目線を下にやると、手には、包丁がある。

「千代がね、なんか倒れてるの。赤い水の中に倒れてるんだよ」

答えた途端、がくん、と体の芯が震わせられた気がして、さらに、脳みそが地震に襲われたみたいに、グラグラと揺れ始めるのを、感じた。

それでもどうしてか、顔の筋肉が、緩む。

思考と体が、噛み合わない。

「おもしろいよ、つついても動かないもん。千代ー、起きなさーい」

生あたたかい、ヘンな水。ニオイがある……なんだろう、鼻を刺すような、強い匂い。

そのいろんな感覚が私を刺激して、思わず、クスクスと笑いがこぼれる。

なんでだろう、ものすごく清々しい。

――そう思ったその途端、背筋にゾクゾクとしたものが這い上がってきた。
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