赤いエスプレッソをのせて
(違う)

あれは、赤い『水溜まり』なんかじゃなかった。

あれは、血だ。私は、おもしろがって、妹をつついていた。

なにで? 包丁で。どうして? わからない。

どうしてまた――わからない……わからない……わからない……ワカラ――

その時突然、とんでもない勢いで、目の前が真っ赤に染まった。

「っぃ、イヤああ――!?」

白衣を着ている仲代先生、白で塗装されているはずの院内そのものが、一瞬でその色に染まる。

目をギュッと閉じて、私は恐怖にうずくまった。

「どうしたの!? 黒井さん!? 大丈夫? どうしたの!」

私の肩を叩きながら、仲代先生が叫ぶ。

「大丈夫? なにかイヤなものが見えたんですか? ――ほら、さあ、チョコレート食べて。落ち着いて、大丈夫ですから、ね? 落ち着いてください?」

ポンポンと肩を何度も優しく叩かれて、顔を覆ってた手を退けて、顔をあげる。

すぐ目の前、ただただ心配という色だけを浮かべてくれている仲代先生の顔、白衣、診察室のどれも、もう赤には染まっていない。

一瞬の、出来事だった……。
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