9歳差は、アリですか?
「そっか。良かった」

笹山の暗い顔がぱっと明るくなったので、立原はなぜだかほっとした。

「なら、今から教えてあげる」

柔らかく笹山が笑う。ああ、従兄弟だ、笑い方少し悠くんと似てる。
笹山としっかり目を合わせながら止まってしまいそうな息をどうにか整えつつ笹山の次の言葉を待つ。

「立って、早く!帝学の高等部校舎に走って!急いで、今ならまだ間に合うから!ーーー今しかもう多分機会はないよ!」

突然叫ばれて、立原は「え」、と理解する前に言われた通り反射的に立ち上がり強引に押し付けられた鞄を受け取った。

「今日、卒業式なんだハルカ。今日なら部外者でも入れるはずだから!早く行って、会いたいんでしょ!」

後は何も考えられなかった。強く笹山に背中を文字通り押されて前のめりになったまま立原は反射的に走り出した。
間に合う?今なら?
脳がちゃんと働かないで、脊椎で駅を飛び出した。笹山は機会をくれたのだ。これで綺麗に諦められる。少し寂しい気もするが、これで浅岡も、立原も自由になれる。
しかしそれよりも、浅岡に会える事が嬉しくて走る足は段々速まった。
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