溺愛オフィス


暫くすると、ヒールの音が聞こえて。

そちらの方向に視線を向けると、タイトな大花柄のプリントワンピにサングラスをかけたKAORIさんの姿が。


「おはようございます!」


笑顔を浮かべて私はKAORIさんに挨拶した。


──でも。


「…………」


何故か、あからさまに無視されてしまった。

目は合った。

声だって小さくはなかったはずだ。


さっき、松岡さんが機嫌が悪そうだって言ってたけど……

そのせい、なのかな?


私の横を通り過ぎ、スタジオの中に入っていくKAORIさん。

そんな彼女の態度に私が戸惑っていると、隣に立っている松岡さんが溜め息を吐いた。


「ごめんなさい。仕事には支障がないように宥めておきますから」


申し訳なさそうに言って、松岡さんはKAORIさんの背中を追う。

私は大丈夫ですとも、お願いしますとも返せずに、心の隅でもやもやしたものを感じながら二人の後ろを歩いたのだった。


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