溺愛オフィス


"昔"とは多分、桜庭さんがKAORIさんと付き合っていた頃のことだろう。

桜庭さんの親のコネを利用して、用は済んだと言わんばかりに次の男性と付き合ったKAORIさん。

そんな身勝手さを、桜庭さんは非難している。

この場でそれを知っているのは、きっと私を含めた3人だけ。

話の中身をよく理解できない他のスタッフたちは、桜庭さんとKAORIさんの関係を疑問に思っているのか、なんともいえない面持ちでスタジオ内に流れる重い空気に耐えているようだった。


KAORIさんが、桜庭さんにフ…と微笑みかける。


「一陽のハッキリ言うところも相変わらずねー」


そして、スッと立ち上がると真正面に立つ桜庭さんに不敵な笑みを見せて。


「でも、誰にそんな口聞いてるのかな?」


首を傾げながら、脅すように言った。


これ以上はやばい。

そう思って、私は桜庭さんの背中に声をかける。


「さ、桜庭さん。私は平気ですから」


隣に立ってる壮介君だけじゃない。

KAORIさんの横にいる松岡さんも、深水さんや他のスタッフも、この状況にはらはらしている。


< 174 / 323 >

この作品をシェア

pagetop