溺愛オフィス
あの後、私は家に戻ってから、かなり後悔したのだ。
桜庭さんに触れられた時、怖くはなかった。
それはきっと、相手が桜庭さんだから。
彼は信用できる人。
クールなところはあっても、私を傷つけるような人じゃない。
ひどく傷つけられたと感じたこともないし、それどころか私を助けてくれていた。
だから、私にとって彼は特別な人になったのだ。
でも、あれでは桜庭さんを拒絶したみたいで……
多分、桜庭さんもそう取ったはず。
だけど、今更"嫌じゃなかった"とか説明するのも恥ずかしくて。
ホント……どうしたらいいんだろう。
仕事だから今までと同じように関わってはいるけれど、やはり私と桜庭さんの間には距離ができたように、どこかギクシャクしてるし。
人に気付かれないように溜め息を吐き出すと、オフィス内にお昼のチャイムが響き渡った。
それを合図に、仕事モードだったフロア内の空気が緩む。
いそいそと立ち上がる女子社員の手にはお財布がひとつ。
彼女たちは今日の定食の話をしながらオフィスを出て行った。