ストックホルム・シンドローム
「…目をつぶって」
目をつぶったらしい彼女に気づかれないようナイフをしまい、右手で口を塞ぐ――。
「〜〜ぐっ!!」
…ダウンジャケットの裾から取り出したスタンガンを首筋に付け、強い電流を流すと、彼女はびくりと揺れて力を抜いた。
「…ごめんね」
…スタンガン、ナイフ。
僕が彼女を捕らえるために、そのためだけに、用意した物。
地面に倒れようとする彼女を抱きかかえ、通学用の鞄を拾って、僕は自分の家へと向かう。
彼女は目をつぶり、純真な愛らしい寝顔を僕に見せている…。
さぁ、行こうか、僕らの家へ。
ぽつりぽつりと雨が降り出してきて、瞬く間にそれは土砂降りになった。
僕の髪が、ダウンジャケットが、腕に抱えた彼女が、彼女の可愛らしい顔が濡れる…。
…あぁ愛しい。
彼女が、愛おしい。
あぁどうか、お願いだから、"今度こそは"…僕の愛を、受け取って。
彼女にあまり雨がかからないようにしながら、僕は雨降る道を歩いて行く。
心の中で、彼女に語りかけた。
さぁ、僕らだけの、誰にも邪魔されない
二人きりの生活を始めよう。
もう、二度と離さないから。
もう二度と、
君を、逃がしはしないから――。