あの頃のキミは
「ま、まり..なちゃん?顔あげて?」
「本当にごめんなさい...私、自分のした事がこんなに大変な事だったなんて...」
「でも...私、こうして無事なわけだし...ね?」
確かに混乱しなかったわけではないけど
凪くんとのわだかまりも溶けて
こうして学校にも来られている。
満里奈ちゃんの肩を支え、ゆっくりと顔を上げてもらった。
「...永井さんって本当お人好し...もっと怒ればいいのに」
凪くんにも言われたな...
「お...怒ったほうがよかった...?」
「別に、そういうわけじゃないけど...」
と、満里奈ちゃんがもじもじしながら右手を差し出した。
その手には小さくてお洒落な紙袋。
「...?」
「これ、こんなので許してもらおうなんて思ってないけど...私の気が済まないから、せめてものお詫びとして...受け取ってほしい...」
段々と小さくなる声。
満里奈ちゃんの手からその小さな紙袋を受け取った。
開くとそこには長方形の小さな箱が入っていた。
「これ...」
黒い箱にブランド名が箔押しされている。
それは私なんかが普段手に取ることのない、ブランドのリップだった。
「永井さん、普段化粧っ気ないし、と思ったんだけど普段使いできそうなカラー選んだから使ってみて...。」
確かに運動部だし、化粧なんてしても眉くらいだ。
普段手に取ることのないその箱を持って、少し胸がときめいた私がいた。
「あ、ありがとう!使わせてもらうね!」
満里奈ちゃんは少し微笑んだかと思うと、私の耳元に顔を近づけた。
「ほんっとお人好し...うん、これで皆見くんのこと、ドキドキさせちゃいなね。それじゃ」
そういって私の横を通りすぎていった。
さらりと髪をなびかせる満里奈ちゃんは、やっぱりいい香りで可愛くて...女の子に憧れられるような子だと思った。
きっとこの事がなければ、関わることもなかったかもしれないけど、友達にもなれたんじゃないかな...。
すれ違う凪くんと満里奈ちゃんはお互いに顔をそらしていた。
そんな二人を見ていると、少しほっとした表情の凪くんと目が合った。
「...絵麻、帰ろっか」
