真っ赤なお伽話
「よぉ!」
「くたばれ。」
ボロアパートの鍵穴はドアノブごと廊下に転がっている。
ドアノブがかつて存在した所には直径十センチ程の穴が空いていてそこから中を除くと少年が部屋の中に当然のように超然と鎮座していた。
穴に手を引っ掛け、器用にドアを開け部屋に入った。この修理代はきっと僕持ちなのだろう。
「久し振りだな運命の反逆者。」
「久し振りしたくなかったんだがな、魔王。」
僕のため息にも無垢な笑顔を崩さない轟々野。
口の端からは可愛らしい八重歯が顔を覗かせているが、この八重歯は轟々野の凶器である。
当たり前の様にヤカンを使って茶を沸かしていたようで、湯呑みが小さなテーブルの上にこじんまりと座っていた。
「いやー何だか大変みたいだな。」
「確実にお前のせいだがな。」
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