いと。

「…京香。」

窓辺の椅子に腰掛けながら外の景色を眺める女に声をかけると、彼女は一瞬ピクリとしてからこちらを向いた。

「…あら、総一郎さん。いらっしゃい。」

ふんわりと笑うその顔には、そばに行くと年相応のシワが見え隠れする。

…そう。

彼女は総一郎の妻であり愛の母親、京香だ。

京都にある実家に戻ってもう25年が経った。10年ほど前に母親が亡くなってからはここで総一郎が雇ったお手伝いの住み込みの女性と暮らしている。

「…京香。しばらくだった。ここもやっぱり暑いね。体調は崩していないか?」

隣の椅子に腰掛け、肩に優しく触れて気遣うようにそう尋ねると彼女はそっと総一郎にもたれた。

「暑い?んー、そうかもしれないけど家からほとんど出ない私にはわからないわ。」

その仕草や口調は、結婚前と変わらない。

「外に出ない?出たくはないの?」

「そうね…。総一郎さんと一緒ならいいわ。どこへでもついていく。」

彼女はまたふんわりと笑い…昔のように嬉しそうに総一郎のスーツの裾を掴んだ。

京香にとって総一郎との関係は、未だに結婚したての新婚夫婦なのだ。


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