いと。
「………はぁ。」
彼の深いため息が静かなリビングに響いた。
「戸澤さんには、悔しいですけど本当に感謝してます。おかげで随分良くなりました。でも私の気持ちは変わりません。
父や貴方の会社の犠牲になるつもりはないし、愛されない愛さない結婚なんてしない。
…って、聞いてますか?」
ため息を吐いた彼はスタスタとキッチンへ行き、冷蔵庫から出したミネラルウォーターを飲み始めた。
「あの………。」
「わかってる。」
視線を合わせることなく、呟くようにそう言った彼はグラスの最後の一口を飲み終えるとまっすぐに私の前に立った。
「………………。」
広いリビングに詰まるような重い静寂が染み渡り、思わず怯んでしまう。
ソファの前に向かい合って対峙する私たちに聞こえるのは壁掛けの時計が刻む針の音だけだった。