いと。

短いあいさつ文。

でも確かに、薫の字だった。

その紙は雨に濡れて寂しそうで、それが更に罪悪感を掻き立てた。


『全力尽くしてやっと手に入れた』


それは開店直前、薫が言っていた言葉だ。

薫がどんなに努力してこの店を作り、大切にしていたか…私は、それを隣でずっとずっと見てきた。


それを手放すなんて。


「なんで………っ。こんなことに…!」

震える指先で濡れた紙をなぞる。

涙が溢れて止まらなかった。

ただ、申し訳なかった。

私と出会っていなければ、薫の人生は違っていたはずなんだ。

薫子ちゃんたちとのことがあったとしたって、お店を手放す必要なんてなかったんだから。


『お帰り、愛。』


あの甘くて優しい声がこの店に響くことも、もうなくなってしまった。

私がなくしてしまったんだ。

この店が大好きだと言っていた常連さんもいたのに。

雄太くんだって、薫のことを『兄であり師匠だ』と話していたのに。

本当に仲のいい兄弟のようだったのに。

「…っく。私…のせいで……!」

ここで繋がっていたみんなが、私のせいで壊れてしまった。

主がいなくなり硬く扉を閉ざしたその店の前でできることは、涙を流すことだけだった。

雨が降り続くのも構わず、…私は泣き続けた。


< 346 / 561 >

この作品をシェア

pagetop