いと。
短いあいさつ文。
でも確かに、薫の字だった。
その紙は雨に濡れて寂しそうで、それが更に罪悪感を掻き立てた。
『全力尽くしてやっと手に入れた』
それは開店直前、薫が言っていた言葉だ。
薫がどんなに努力してこの店を作り、大切にしていたか…私は、それを隣でずっとずっと見てきた。
それを手放すなんて。
「なんで………っ。こんなことに…!」
震える指先で濡れた紙をなぞる。
涙が溢れて止まらなかった。
ただ、申し訳なかった。
私と出会っていなければ、薫の人生は違っていたはずなんだ。
薫子ちゃんたちとのことがあったとしたって、お店を手放す必要なんてなかったんだから。
『お帰り、愛。』
あの甘くて優しい声がこの店に響くことも、もうなくなってしまった。
私がなくしてしまったんだ。
この店が大好きだと言っていた常連さんもいたのに。
雄太くんだって、薫のことを『兄であり師匠だ』と話していたのに。
本当に仲のいい兄弟のようだったのに。
「…っく。私…のせいで……!」
ここで繋がっていたみんなが、私のせいで壊れてしまった。
主がいなくなり硬く扉を閉ざしたその店の前でできることは、涙を流すことだけだった。
雨が降り続くのも構わず、…私は泣き続けた。