常務サマ。この恋、業務違反です
高遠さんの胸ポケットの携帯が、静かに電子音を奏でた。
その場の全員がほとんど同時にそれに気付いて、発信源の高遠さんの胸元に焦点を合わせる。


高遠さんはゆっくり携帯を取り出すと、画面の表示で相手を確認した。
そしてわずかに眉を寄せただけで、失礼、とテーブルから離れて行く。
その背中を見送ってテーブルに女三人になると、一瞬私達は顔を見合わせた。
そして次の瞬間。


「……すっごい、緊張した~~~!」


視覚で確認出来るほど肩を大きく動かして、山田さんが息を吐いた。
その勢いのまま、グラスに残っていたカクテルを一気飲みする。


「私、ああいうパーフェクトな男は観賞用か噂のネタ用でいい」


半分くらい同調出来る部分もあって、私は思わず苦笑した。
そしてそれを聞いた新庄さんが、え~、とテーブルに頬杖をついた。


「そりゃ緊張したけど……私はちょっとイメージ変わったな。意外ととっつきやすいって言うか……。
以前東京本社にいた時の敏腕っぷりとか、ニューヨークでの武勇伝とか聞いてたから、全てにおいてアグレッシブな男って思ってたけど」

「けど?」


その続きが聞きたい。私はつい身を乗り出して新庄さんの言葉を促した。


「意外と穏やか……? いや、それもちょっと言葉が違うな」


自分の言葉に首を傾げて、新庄さんはぴったり符合する単語を探すように目線を宙に彷徨わせた。


「仕事とプライベートは別の顔なのかな」


空になったグラスを置いて店員にお代わりを注文してから、山田さんがぼんやりと呟いた。


「残念ながら、この飲み会では高遠さんも仕事モードのままっぽいけどね」


ハアッと目を閉じて息をついてから、新庄さんはチラッと私に目を向けて来た。
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