常務サマ。この恋、業務違反です
そんな私に苛立ちを隠しながら、高遠さんは勢いを付けて椅子から立ち上がった。
スラックスのポケットに両手を突っ込んで、そのままゆっくり私に瞳を向けて来る。


「あ……」


今までに感じたことのない、妙な危険信号が打ち鳴っているのがわかる。


私の些細な仕草も見逃さない……そんな鋭い視線に心が怯んだ。
そのままこっちに足を踏み出して来る高遠さんの不穏な空気に、心臓がドクンと一度大きな音を立てた。


「あ、のっ……! 私、コーヒー淹れて来ます」


どうにかしてこのギスギスした空気にメスを入れたかった。
とにかく今は、お互いに頭を冷やして時間を置いた方がいい。


他に打開策が見付からなかったから、かなり無理矢理なのを承知で、私はクルッと椅子を回転させた。
急いで立ち上がって、近付いて来る高遠さんに背を向けようとして……。


「逃げるなよ」


行く手を阻むように、私の目の前に腕が伸びて来た。
その腕が大きな音を立てて、私のデスクに落とされる。
一瞬ビクッと身体を竦めてから、私は恐る恐る顔を上げた。


私の斜め前の位置に立った高遠さんの腕が、私を通せんぼするようにデスクに置かれている。


「ど、退いて下さい」


初めて会った頃と同じ冷たい瞳で、高遠さんは私をねめつけるように見下ろしていた。


ドキドキと、心臓がやけに大きな音で騒ぎ出すのを自覚した。
それでも腕をどかしてくれない高遠さんから逃げるように、私は高遠さんの身体を回り込もうとした。
そして……。


「きゃっ……」


それより一瞬早く、私の進路を遮るように、高遠さんがもう片方の腕をデスクに突いた。
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