常務サマ。この恋、業務違反です
勤務二日目。
一応『秘書』の私がこんなギリギリで出勤したら、高遠さん本人にも嫌味を言われそうで、廊下を急ぐ短い時間でとりあえずの言い訳を考えた。


昨日のあの様子じゃ問答無用かもしれない。いや、それも違うな。どっちかって言うと……無関心?
ドアの前に立ってそんな言葉に一度首を傾げてから、私は大きく息を吸ってドアを二度ノックした。
返事は待たずに、勢い良くドアを開ける。


「お早うございますっ!!」


元気に挨拶しながら一歩踏み出した時には、言い訳なんて何も考えていなかった。
部屋の中からは嫌味どころか挨拶に返される返事すら聞こえて来ない。


なんだ。エグゼクティブだけに重役出勤か、なんて少しだけホッとして更に足を踏み入れてから私はビクッと立ち竦んだ。


ドアに背凭れを向けて鎮座しているソファの端から、二本の足が飛び出しているのが目に飛び込んで来た。
驚いて小走りに駆け寄ってみると、二人掛けのソファの肘掛けに足を投げ出した格好で、高遠さんが横たわっていた。


「た、かとおさん……?」


恐る恐る近付いて、彼の足元に立った。
視線でなぞるように目を動かして、うたた寝中のその姿に、不覚にもドキッとしてしまう。


ネクタイを緩めてシャツの第二ボタンまで外して、お腹の上でお行儀よく両手を組み合わせた格好で、高遠さんは無防備に眠っていた。
割と長い時間この格好でいたのか、頭のてっぺんの髪がフワフワと乱れている。
キュッと閉じた瞳と、ほんの少し開いた唇。
昨日はずっと眉間に皺を寄せていたのに、どこにも力を籠めず、とても穏やかな寝顔はまるで子供みたいだった。


うわ~……なんて綺麗な寝顔……。
そんな感想を抱いて、無意識に一歩近付いてしまった。
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