常務サマ。この恋、業務違反です
「佐藤さんから、今までの秘書と比べると相当能力が劣る、とは聞いていた。
フランス語もドイツ語もこなせとは言わないけど、異言語の電話に、英語で言ってくれ、ぐらいの応答は出来るだろうが」


電話を切った後、溜め息と共にそう言った高遠さんに、私は、でも!と反論した。
英語で言ってもらったところで、電話応対が出来る自信もない。
恥ずかしさに消え入りそうになる声でそう言った私に、高遠さんはキョトンと目を丸くした。
そして、人事部長に私の身上書を届けさせた、というわけだ。


「……まあ、葛城さんが経歴を偽ってるわけじゃない。この程度でOKを出したのはうちの責任だから仕方がない。
だけど、それならそれで最初から出来ないって言え。変に意地を張るからこういうことになる」


長い足を組んだまま、地に着いた足を軽く動かして、高遠さんは椅子をユラユラと揺すっている。


「……すみません」

「言っとくけど、あんたに……『秘書』に任せたいのは、俺の手が回らない仕事だ。
正直なところ、スケジュール管理も電話応対も自分で出来る。それでも人事の方が、秘書に任せろ、と言って来るからやらせていただけだ」


そうだろうな、と思う。
実際この数日だけで私がしでかしたとんでもないミスは、結局高遠さんが全部自分で処理をした。


秘書どころか、私はこの人の仕事を無駄に増やしているだけ。
それは嫌でも自覚してしまったから、私は顔を上げることも出来ない。


「高遠さんに秘書なんか必要ないじゃないですか」


いろんな意味でいっぱいいっぱいになって、私は思わずそう口走っていた。
それを聞いた高遠さんが、私に上目の視線を向けているのがわかる。


「自分で何でも出来る人だから……。だから、何人も秘書を入れ替えて……!」


そこまで言って、慌てて理性で言葉を止めた。
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