常務サマ。この恋、業務違反です
接待相手は、外資系メーカーの社長夫妻。
アメリカ人で初老の域に足を踏み入れた温和そうな夫婦は、終始英語で和やかに高遠さんと会話をしていた。


おかげで私には、何を話しているのかもわからない。
ここに同席している意味があるのか……。どんどん強張って行く笑顔を保つのすら苦痛になって来た時。


「……ん?」

「あ」


高遠さんの携帯の着信音に、私と高遠さんが同時に反応した。
高遠さんは一瞬眉間に皺を寄せてから、携帯を手にとって応答した。


「もしもし」


短い会話を応酬させた後、スクッとその場に立ち上がる。
そして、チラッと私に視線を向けてから、場を憚るように部屋から出て行った。
それを見送った途端に、室内は沈黙に包まれる。


ちょっと任せた、という意味の目配せだった、と思う。
だけど、この場の会話がずっと英語だったから、私には何がどう話されていたのかすらわからない。
高遠さんが席を立ってしまった今、当然この場に漂うのは気まずい沈黙だけで……。


ほんと、どうして私今日ここに連れて来られたんだろう。
そんなことを考えた時、向かい合った席に座っていたエリーさんが小首を傾げて私を見つめているのに気付いた。


「ノゾミさん。ごめんなさいね。英語、わからないですよね。ずっと退屈だったんじゃないかしら?」

「ええ、全く何を話してるかわからないし……って、え!?」


話しかけられてすぐ返事を返せることにまず驚いて、私はまじまじとエリーさんを見つめた。
エリーさんだけじゃない。その隣の旦那様、ジムさんも少し困ったようにエリーさんと顔を見合わせている。
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